所有者不明土地の問題「不動産登記義務化と土地の所有権放棄」

所有者不明土地の背景

2017年に民間の研究機関が発表した調査によると、九州に匹敵する広大な面積の土地が所有者不明になっているそうです。これ、実は結構大変な問題で、例えば大規模な公共事業を行おうとしても、候補土地の所有者を探し出して整理するだけで、膨大な時間とコストがかかるということです。

2006年以降、政府は所有者不明の土地の利用を促進し、所有者の捜索を迅速に行うことを試みています。2021年3月に国会に提出された「所有者不明の土地の発生を防ぐための法案」が、こういった課題に対する改めての問題提起や社会認知の向上につながればと期待します。相続登記の義務化や相続した土地の所有権放棄を認めるなどの新制度の採択も課題解決の良き流れです。

所有者不明土地とは?

不動産登記簿上で所有者がすぐに判明しない、あるいは所有者が判明しても居住地が不明で連絡が取れない土地のことです。

登記簿に所有者が見つからないのは、登記が任意であるためで、相続した土地を利用したり、売買したりする予定がなければ、登記されないことが多いようです。相続人が何人もいて、何代も登記が放置されていると、昭和初期には50人だった所有者が、平成の終わり頃には数百人に膨れ上がっていたというケースもあるそうです。

相続登記義務化と所有権放棄の必要性

相続したものの、古くて処分できない「不要な土地」は、行き場を失って放置され、多くの場合、次第に荒れ地になってしまいます。

また、都会に住んでいる人が田舎の土地を相続するケースでは、その土地を全く利用しないにも関わらず税金や維持費を支払うことになってしまいます。だからといって売却しようとしても、過疎地では土地を売ることが難しかったり、地方自治体に寄付しようとしても、自治体にその土地の利用計画がなければ受け付けてもらえません。

不動産の相続登記が義務化されれば、土地の所有権が明確になることで、要らない土地や管理されていない可視化され、ニーズが生まれやすくなります。また、これと所有権放棄がセットになることで、例えば、直近ニーズのない土地を国有財産として戻し、日本国として将来のニーズに備えるということも可能になるわけです。

「三方良し」の考え方です。

民間の事業ニーズ掘り起こしも期待

このような流れにおいて、土地の所有権放棄サポートセンターのような民間の事業者も活躍しはじめており、例えば次のような事例に対しても積極的な取り組みがなされています。

ケーススタディ1

売却できない、寄付も法規もできない土地を自分の子供に継がせるのは負担をかけてしまうためしのびない。何とかならないのだろうか?

ケーススタディ2

両親が何十年も前に田舎の土地を購入したことが発覚し、その土地を相続することになってしまったのだが、他県にあって土地勘もなく、処分するにもどうして良いかわからない。

ケーススタディ3

相続で、マンションのような「動産に近い不動産」は皆欲しがるのだけれど、売却できそうにない「要らない土地」には誰も手をあげず、遺産分割協議が全く進展しない(←このケーススタディは実は非常に多いそうです)。

今後の展望

所有権放棄にはいくつかの潜在課題があります。例えば相続登記した人が経営責任を逃れるために不動産所有権を放棄するような制度の趣旨に反する行為などが挙げられます。過剰な管理コストを要する物件や訴訟に関係する物件は精査されてしかるべきです。このような精査も、国主導でとなるとフットワークが悪いため、民間主導案件となることを期待したいところです。

とはいえ、所有者不明土地の問題は「待ったなし」の状態まで顕在化してきています。現在の日本の人口ピラミッドから予想するに2040年頃には所有者不明土地の累計面積が北海道と同等の面積規模にまで膨れ上がることが試算されているそうです。土地の保全とその有効活用を真剣に議論し、進捗させていくべきです。

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