
発達障害の診断基準とセルフチェックの徹底ガイド|DSM-5・ICD-11でわかる特徴と正しい理解
「もしかして自分は発達障害かもしれない」「子どもの行動が気になるけれど、どこからが発達障害なの?」そんな疑問や不安を抱える方が年々増加しています。近年、発達障害の診断に関する正しい情報や診断基準への理解がますます重要になっており、早期に気づくためのセルフチェックの役割にも注目が集まっています。
発達障害には自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などがあり、それぞれ異なる特性と困難を伴います。これらを適切に把握するためには、DSM-5やICD-11といった国際的な診断基準に基づいた多角的な評価が欠かせません。正確な診断は、教育・医療・就労など各分野での適切な支援につながる大切なステップです。
この記事では、発達障害の診断基準やセルフチェック方法を体系的に整理し、信頼できる情報をもとに理解を深めるための実践的なガイドをお届けします。専門機関の診断を受ける前に、自分や家族の特性に気づく第一歩として、ぜひお役立てください。
発達障害の診断に関する基本的な知識
発達障害の診断は、本人の特性を深く理解し、日常生活における困りごとに対する具体的な対応策を見出すための第一歩です。診断を通じて、教育現場、職場、家庭などの場面で生じる困難を明確にし、適切な支援を導入することが可能になります。
発達障害にはさまざまなタイプが存在し、それぞれに特有の行動傾向や認知スタイルがあるため、正確な診断は極めて重要です。診断は主に専門の医療機関で行われ、臨床心理士や児童精神科医などがDSM-5やICD-11といった国際的診断基準を用い、面接、行動観察、心理検査(例:WISC-V、ADOS-2など)を組み合わせて評価を行います。
発達障害の診断は、単にラベルを付けることが目的ではありません。むしろ、本人のニーズや強みに応じた支援計画を策定するための出発点として重要です。この観点から、診断は教育的・社会的包摂(インクルージョン)を実現するための有効なツールとも言えます。
代表的な発達障害には、注意欠如・多動症(ADHD)、自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などがあります。これらは主に行動や対人関係に関する特徴をもとに識別されます。以下では、それぞれの特徴について詳しく解説します。
発達障害とは
発達障害は、神経発達に関連する脳の構造や機能の違いから生じる障害群です。認知、言語、社会性、行動、学習など幅広い領域に影響を与えることがあります。発達障害の原因は、遺伝的要因と環境的要因が複合的に関与しており、特に妊娠期や出生直後、乳幼児期の脳の発達に影響する要素が注目されています。
また、発達障害は定型発達と明確に区別されるものではなく、連続的なスペクトラムとして捉えられることが増えてきました。このため、診断や支援の方法にも柔軟性が求められています。
代表的な発達障害の種類
発達障害にはいくつかの主要なタイプがあり、それぞれが異なる特徴や困難を伴います。以下は代表的な障害の一覧です。
- 自閉スペクトラム症(ASD)
- 注意欠如・多動症(ADHD)
- 学習障害(LD)
特徴的な行動例
それぞれの発達障害は、特定の行動や思考パターンによって特徴づけられます。以下に主な例を示します。
- ASD:視線が合いにくい、対人関係の構築が困難、強いこだわり、感覚過敏
- ADHD:集中力が続かない、指示を忘れる、多動、衝動的な行動
- LD:音読の困難、文章理解の遅れ、計算時の混乱など特定の学習領域での課題
また、複数の発達障害が同時に見られる併存ケースも多く見られます。特にASDとADHDの併存は診断や支援方針の決定に影響するため、慎重な評価が求められます。
発達障害の診断とその重要性
発達障害の診断は、本人や家族、教育・医療関係者がその人の行動や思考の背景を理解する上で、非常に大きな意味を持ちます。自身の困難の理由を知ることが、前向きな支援への第一歩になります。
診断プロセスの流れ
発達障害の診断は、科学的根拠に基づいて段階的に進められます。以下は一般的な流れです。
- 地域の相談窓口やかかりつけ医から専門医療機関へ紹介
- 発達歴、生活歴、教育歴などの詳細な聞き取り
- 行動観察と保護者・学校からの情報収集
- 心理検査や発達検査(WISC-V、K-ABCⅡ、ADOS-2、CBCLなど)の実施
- DSM-5またはICD-11の診断基準に基づく評価
これらの手順は、診断の正確性を高めるために、複数の視点や評価者の意見を反映させながら進めることが望まれます。また、年齢に応じた再評価も重要であり、特に思春期や成人期における変化の把握に役立ちます。
発達障害の種類別特徴
発達障害の特徴は個人ごとに異なりますが、各障害に共通する傾向も確認されています。以下では、それぞれの特徴を整理します。
自閉スペクトラム症(ASD)
ASDは、社会的コミュニケーションの困難さと、特定の興味や行動の繰り返しが特徴的です。例として、以下のような傾向があります。
- 視線を合わせるのが難しい
- 会話が一方的になる、感情のこもらない話し方
- 日常のルーティンに強く固執する
- 感覚過敏(音や光、触覚など)または鈍感
なお、ASDの症状は成長とともに変化することがあり、青年期以降には表面化しにくくなる場合もありますが、支援が不要になるわけではありません。
注意欠如・多動症(ADHD)
ADHDは、不注意、多動性、衝動性といった特徴を持ち、幼児期から成人まで影響が及ぶ可能性があります。
- 細部に注意が払えず、ミスが多い
- 課題への集中が続かない、話を最後まで聞けない
- 落ち着きがなく、常に動いているような印象
- 順番が待てず、他者の発言を遮る
ADHDにはタイプの違いがあり、「不注意型」「多動・衝動型」「混合型」があります。成人においても社会生活や仕事への影響があるため、継続的な支援が求められます。
学習障害(LD)
LDは、知的な遅れはないものの、読み書きや計算といった特定の学習分野で顕著な困難を伴う障害です。
- 読字障害:音読が苦手、文章の意味をとらえにくい
- 書字障害:文字の転写や文章表現に困難
- 算数障害:計算や数量の理解が難しい
LDは他の発達障害との併存率が高く、総合的な評価と支援が不可欠です。教育現場では、ICTの活用や学習方法の工夫など、個々に応じたアプローチが有効です。
これらの特性に適切に対応するためには、早期診断と包括的な支援体制が重要です。教育、医療、家庭、地域社会が連携し、本人の可能性を最大限に引き出すことが求められています。
発達障害診断基準を徹底検証
発達障害の診断基準は、個々の特性を科学的かつ公平に評価し、必要な支援へとつなげるための出発点です。専門家が適切な判断を下すうえでの指針として機能し、社会全体の理解と支援体制の質を高める役割も担っています。
この診断基準は、世界的に広く使用されているDSM-5(精神疾患の診断・統計マニュアル第5版)やICD-10(国際疾病分類第10版)など、信頼性の高いマニュアルに基づいています。これらの枠組みは、症状の重症度や生活への影響を多面的に捉えることが可能です。診断精度の向上とともに、国や地域に適した運用が進められてきました。
特にICD-11は2018年に世界保健機関(WHO)で正式に承認され、2022年からは国際的に運用が開始されています。この最新版では「神経発達症群」という新たな分類が導入され、従来の発達障害との構造的な見直しが図られました。さらに、診断支援ツールの電子化も進み、医療現場の効率性と一貫性が向上しています。症状の重さや支援ニーズの判断においては、柔軟性を持たせつつ、専門家の臨床的裁量が活かされる構成となっています。
DSM-5とICD-10の比較
発達障害の診断には、DSM-5とICD-10という二つの国際的な診断基準が主に使われています。いずれも科学的根拠に基づいた評価体系ですが、その視点や運用のされ方には違いがあります。
DSM-5はアメリカ精神医学会によって策定されており、精神疾患に焦点を当てた詳細な分類と診断指標が特徴です。2022年には、定義や統計情報が更新されたDSM-5-TR(テキスト改訂版)が公表され、ICD-11との整合性も一部強化されています。
一方、ICD-10はWHOが定めた分類体系で、身体疾患を含めた全般的な健康評価にも用いられています。現在はICD-11への移行が進行中で、自閉スペクトラム症(ASD)の診断においては、知的能力や言語能力を基準とする8つのサブタイプに細分化され、より具体的な理解と支援が可能となっています。
主な違いと適用領域
それぞれの診断基準が使用される背景や適用領域を理解することで、発達障害に対するアプローチの違いを明確に把握できます。
- DSM-5:精神疾患に特化し、臨床医が使用しやすいように設計された詳細な分類。指定子(specifiers)を用いて重症度や特性を細かく記述。アメリカ国内の医療・研究機関で広く採用。
- ICD-10:精神疾患と身体疾患を含む国際的な疾病分類。保険請求や統計用途でも使用される。
- ICD-11:ICD-10の後継として最新の医療知識に基づき構築。ASDにおける多様性を反映し、診断や政策に応用されやすい構造。デジタル診断支援に対応。
診断基準の選択は、医療機関の方針や地域の制度設計、保険制度の運用方針などに応じて変わることがあります。そのため、診断を受ける際には、用いられている診断基準の性質を理解しておくことが大切です。
診断基準の変遷とその影響
発達障害に関する診断基準は、時代の流れとともに進化してきました。この変化は、科学的な知見の蓄積だけでなく、社会の価値観や文化の変容をも反映しています。
たとえば、DSM-5では「アスペルガー症候群」が自閉スペクトラム症に統合されました。これにより、連続体としての理解が進み、個々の違いを尊重した支援が展開しやすくなっています。同様に、ICD-11でもASDの概念が導入され、国際的な基準の整合性が高まりました。
また、神経多様性という考え方が広まり、発達障害を「治すべき問題」ではなく、「多様な脳のあり方」として捉える視点が台頭しています。LGBTQ+などの社会的マイノリティとの交差性にも注目が集まり、診断・支援に求められる視点はますます多様化しています。
さらに、女性や成人における診断の遅れも社会的課題として浮かび上がっています。女性はしばしば行動特性を隠す「マスキング」を行うことがあり、見過ごされるケースが少なくありません。こうした背景も踏まえ、診断の質と支援の適正化が求められています。
診断基準の変遷による影響
診断基準の変化は、当事者だけでなく、医療・教育・行政など多方面に波及しています。その主な影響を以下に整理します。
- 名称の変更による認知の混乱や再診断の必要性
- 柔軟で個別化された支援がしやすくなる
- 社会的理解の深化により偏見が軽減される
- 早期発見と早期介入の機会が拡大
- 性別や年齢による診断格差の是正が進む
- 新たな支援ニーズに応じた制度設計の動きが見られる
- 多様性尊重の視点が行政や教育現場に浸透し始めている
専門家による診断の流れ
発達障害の診断は、単に質問に答えて結果を得るだけではありません。複数のステップと専門的な評価によって、個人の特性や困難さを多角的に捉えるプロセスです。
初めに行われるのは、本人や家族からのヒアリングです。生活環境や行動の傾向を把握するために、学校や職場からの情報も加味されます。その後、スクリーニングによって発達の遅れや行動上の特性が見られるかを確認し、必要に応じて心理検査や観察へと進みます。
また、遠隔診断(テレヘルス)という新しいアプローチも注目されています。地域的な制約を超えて診断が可能となる一方で、対面評価に比べて観察が限定されるなどの課題も存在しています。現在は、それぞれの手法の長所を組み合わせたハイブリッド型の評価が推奨されています。
診断プロセスの主なステップ
以下は、専門家によって実施される発達障害の診断手順の一例です。
- ヒアリング:本人・家族・学校などからの詳細な聞き取り
- スクリーニング:簡易的な質問票や観察による初期評価
- 心理検査と行動観察:ADOS-2やADI-Rといった標準評価ツールを使用
- 多職種連携による評価:複数の専門職が協力し、総合的に特性を把握
- 診断結果の統合と説明:評価結果を基に今後の支援方針を明確化
このようにして導き出される診断は、単なるラベリングではなく、適切な支援のためのナビゲーションとなるものです。精度の高い診断は、本人の理解を深め、周囲との関係性の向上にもつながります。
セルフチェックでわかること
発達障害の診断を検討する際、セルフチェックは自身の状態を整理し、早期に変化へとつなげるための有効な手段です。日常生活の中で見過ごされがちな困難や行動の特徴を捉え、次の行動への第一歩を踏み出すためのきっかけになります。
近年では、DSM-5やICD-10、さらに最新版のDSM-5-TRなどの診断基準を参考にしたセルフチェックツールが登場しています。これらは、発達障害の特性に対する理解を深める上での手助けとなり、専門的な診断が必要かどうかを判断するための一助となります。DSM-5-TRでは「発達歴に基づく行動の持続性」や「社会的・学業的機能の障害」などが重視され、ICD-11ではASDやADHDが神経発達症群として包括的に整理されています。
ただし、セルフチェックには主観的な認識の偏りが伴うことがあります。自身の課題を過小評価または過大評価してしまう傾向も見られ、結果を鵜呑みにせず冷静に受け止める必要があります。
セルフチェックの利点と限界
セルフチェックは、発達障害の可能性を検討するうえで、誰でも始められる簡易的な手段です。自分の行動や気質を見直すことで、普段は気づきにくい傾向を言語化でき、専門家への相談の動機づけとして役立ちます。
たとえば、集中力の持続が困難だったり、人との関わりに苦手意識を感じるなど、明確な自覚がない場合でも、セルフチェックを通じて新たな気づきが得られるケースもあります。
セルフチェックの主な利点
次のような点で、セルフチェックは発達障害の初期段階における支援の出発点になります。
- 時間や場所を問わず、手軽に実施できる
- 症状や特性への気づきを促す
- 診断機関への相談のきっかけになる
セルフチェックの限界と注意点
一方で、セルフチェックには構造的な限界もあります。質問項目は一般化されており、すべての個人差を的確に捉えることは難しいため、自己判断に頼りすぎないことが重要です。
さらに、臨床研究では、自己評価と第三者評価(家族や教師など)との一致率はおおむね20〜40%とされており、評価の精度にも限界があります。構造化面接(例:DIVA 2.0)や多角的視点の導入によって、診断の確度は高められます。
- チェック項目が一律で、細かな特性を把握しにくい
- 主観的な評価が入りやすく、誤解につながる可能性がある
- 最終的な判断は、医療機関での正式な診断に委ねる必要がある
このように、セルフチェックは「気づきのツール」として活用することが適しており、専門家による総合的な診断と連携して利用することが望まれます。
よくあるセルフチェック項目
発達障害に関連するセルフチェックは、認知機能や社会性、情緒調整など、複数の観点から構成されています。特にADHDやASD(自閉スペクトラム症)の特性に注目した設問が多く、自己分析の手がかりとなります。
セルフチェックツールの中でも広く用いられているものには、以下のようなものがあります。
- ASRS v1.1:ADHDの自己評価ツール。Part Aがスクリーニング用、Part Bが追加評価用
- RAADS-R:ASDの診断補助に用いられ、感覚過敏や言語理解、空気を読む力などの項目を含む
- NovoPsych:各種心理検査をオンラインで提供する評価プラットフォーム
- MDCalc:臨床現場で使われるスコアリングツールの集約サイト
- ADD.org:ADHDに関するオンライン自己評価リソース
代表的なチェック内容
実際のチェック項目としては、以下のような行動パターンや反応傾向が確認されます。自分の習慣や考え方を振り返りながら確認することで、特性に対する理解を深めることができます。
- 話の途中で集中が切れやすい
- 持ち物を頻繁に忘れたり紛失する
- 時間や予定の管理が苦手
- 対人場面で相手の感情を汲み取るのが難しい
- 些細な出来事に強く反応してしまう
これらの項目に複数当てはまる場合には、発達障害の可能性について専門機関での相談を検討してみるとよいでしょう。ただし、あくまで傾向を知るための目安であり、診断を確定するものではありません。
セルフチェック後の次のステップ
セルフチェックを通じて気づきを得たあとは、その結果を適切に扱うことが重要です。不安を抱いた場合は、信頼できる人に共有することで気持ちを整理しやすくなります。
本格的な診断を希望する場合は、発達障害の診断に対応した医療機関やクリニックの受診を検討しましょう。診断の際には、DSM-5-TRやICD-10の基準に基づき、知能検査(WAIS-IVなど)、行動観察、発達歴の聴取、さらに第三者からの情報収集などが組み合わされます。また、CAARSやAQなどの補助的尺度もよく用いられます。
受診に向けた準備ポイント
診断を円滑に進めるために、以下のような準備が役立ちます。
- セルフチェックの結果を記録し、持参する
- 困っている場面や状況を具体的にメモしておく
- 基礎的な発達障害の知識を事前に学んでおく
- 幼少期の様子や家族の意見なども整理しておくと、診断精度が高まる
正式な診断の後には、状況に応じたサポート体制を整えていくことが大切です。学校や職場での合理的配慮、カウンセリング、行動療法、薬物療法などが代表的な支援手段です。さらに、支援団体や福祉制度を利用することで、長期的な視点で生活の質を向上させることも可能です。
発達障害の診断と支援には、科学的根拠に基づいたEBP(Evidence-Based Practice)が重視されます。適切なプロセスを踏んで進めていくことが、自分らしい生活への第一歩となります。
発達障害診断を受ける際の注意点
発達障害の診断は、専門的な知識と臨床経験を持つ医師によって実施されます。適切な診断を受けるには、診断前に自身の症状や困りごとを整理しておくことが有効です。また、診断後の支援体制を事前に把握することで、必要なサポートに速やかにつながることが期待できます。
診断を受ける前に知っておくべきこと
診断に進む前に、発達障害の診断基準や診断方法について基本的な理解を得ることは、自身の状況を客観的に把握しやすくするためにも重要です。
診断プロセスの全体像を理解する
発達障害の診断には、問診、心理検査、行動観察、生活状況の評価といった複数のステップが存在します。これらはDSM-5(アメリカ精神医学会の診断基準)やICD-11(世界保健機関の国際基準)を参照しながら行われます。成人の診断では、幼少期の情報が不足しがちであるため、母子手帳や学校の記録、家族からの聴き取りなどが診断精度を高める材料となります。
- 代表的な心理検査としてWAIS(成人知能検査)、WISC(児童用知能検査)、ADOS-2(自閉症スペクトラム評価)、Vineland-II(適応行動尺度)などが挙げられます。
- 発達障害は他の精神疾患と併存しやすいため、ADHDとASDの併存や、うつ病、不安障害などとの鑑別が求められます。
診断は一度の面接や検査で確定するものではなく、複数回にわたる評価と観察によって慎重に判断されます。
診断のメリットと留意点を理解する
発達障害の診断は、支援への道筋を開く大きなきっかけとなります。適切な支援を受けることで、生活の質の向上や就学・就労環境の最適化が期待できます。診断結果をもとに、障害者手帳の申請や、福祉制度の利用が可能になることもあります。
一方で、診断結果が「ラベリング」や偏見を生む可能性もあります。職場や教育機関で診断を共有するか否かは、慎重な判断が必要です。また、発達障害は「スペクトラム=連続体」とされ、明確な境界を持たないことも理解しておくとよいでしょう。
信頼できる医療機関の選定
発達障害の正確な診断を受けるためには、信頼できる医療機関を見極めることが重要です。専門的な診断体制が整った機関を選ぶことで、適切な評価と助言を受けることが可能になります。
以下の観点が、医療機関選びの指標となります。
- 精神科、心療内科、小児神経科、児童精神科に発達障害外来が設置されているか。
- 日本精神神経学会認定の精神科専門医や、発達障害に精通した臨床心理士の在籍有無。
- 自治体が公開している医療機関リストや、地域の相談支援事業所の紹介制度。
- セカンドオピニオンの受け入れ体制や、オンライン診療の可否も確認しておくと安心です。
診断後のサポート体制
発達障害と診断された後は、医療だけでなく、教育、就労、日常生活の各領域での支援が重要となります。これらを適切に活用することで、本人の社会参加や自立を後押しできます。
医療機関による継続的な支援
診断後の医療的支援には、症状の安定と社会生活への適応を目指す継続的なアプローチが必要です。
- 医師による経過観察や臨床心理士との定期的な面談を通じて、心身の状態を適切に保ちます。
- 薬物療法は、ADHDに対するメチルフェニデートやアトモキセチン、リスデキサンフェタミンなどが用いられますが、非薬物療法との併用が一般的です。
- 認知行動療法(CBT)、生活リズムの改善、ペアレント・マネジメント・トレーニング(PMT)、ソーシャルスキルトレーニング(SST)など、個別のニーズに応じた介入が行われます。
教育・就労現場での支援策
学校や職場での支援は、当事者が持つ困難を軽減し、可能性を最大限に活かすための土台となります。
- 教育現場では、個別の教育支援計画(IEP)や教育支援ファイルを活用し、通級指導教室や特別支援学級などの支援体制が整備されています。
- 試験時間の延長、座席の配慮、課題提出方法の変更などの合理的配慮が実施されることもあります。
- 職場では、ジョブコーチの支援、障害者就業・生活支援センター、ハローワークの専門窓口などを通じて、安定的な雇用と職場適応を支援します。
- 障害者雇用枠とオープン就労の特徴を理解し、どのような働き方が本人に合っているかを見極めることが重要です。
地域支援機関・相談窓口の活用
地域社会には、発達障害のある人とその家族を支えるための多様な支援窓口が設けられています。これらを効果的に活用することで、生活の安定と安心感が得られます。
- 発達障害者支援センターでは、診断後の不安への対応や、関係機関との連携支援が提供されます。
- 障害福祉課・教育相談センターは、就学支援や福祉サービスの申請などに関する情報提供の窓口です。
- 地域包括支援センターは主に高齢者向けですが、混同に注意しながら他の相談機関との併用が必要です。
- ピアサポート団体では、同じ経験を持つ当事者や家族とつながることで、孤立を防ぎ、実践的な支援情報を得ることができます。
家族や周囲の理解を得る方法
発達障害の特性は外見では判断しづらいため、周囲の理解が得られにくいこともあります。そのため、適切な情報共有や継続的な対話が、理解と共感を深める鍵となります。
正確な情報を共有する
家族や友人との間で正確な情報を共有することで、誤解や偏見を防ぎ、協力的な関係を築きやすくなります。DSM-5に基づく障害概念や、感覚過敏・注意の持続困難など具体的な特性をわかりやすく説明すると効果的です。
視覚的に理解を助けるため、イラストや資料を用いた説明も推奨されます。
オープンな対話を促す
日常の困りごとを具体的に共有し、「何を」「どのように」支援してほしいかを率直に伝えることが、相互理解への一歩です。
- たとえば「音が多い場所では不安が強くなる」「時間通りに行動するのが難しい」といった具体例を示すことで、支援の方向性が明確になります。
- 「予定変更は前日に知らせてほしい」など、配慮してほしいタイミングや方法も伝えましょう。
対話は双方向であるため、相手の戸惑いや疑問に丁寧に応える姿勢も大切です。
共通の学びの場を設ける
発達障害について共に学ぶ場を設けることは、家族や周囲が理解を深め、より良い支援者になるための大きなステップです。
- ペアレント・トレーニング、障害理解講座、当事者による講演会などに参加することで、専門的知識と実体験の両面から理解が得られます。
- 障害受容には、ショック、否認、混乱、受容といった段階があるため、家族間で感情の変化を共有しながら支え合うことも重要です。
継続的に学び合うことで、家族の中に支援的な風土が育ち、当事者にとって安心できる環境が整っていきます。
まとめ|発達障害の診断基準とセルフチェックの正しい理解
発達障害の診断は、本人の特性や日常生活における困難を正確に把握し、最適な支援へとつなげるための重要なステップです。発達障害には、自閉スペクトラム症(ASD)、注意欠如・多動症(ADHD)、学習障害(LD)などがあり、それぞれ異なる行動特徴や認知傾向を示します。これらの診断は、DSM-5やICD-11といった国際的な診断基準に基づいて行われ、心理検査や行動観察、発達歴の詳細な聴取などを通じて総合的に評価されます。
発達障害の診断は単に名称を付けることが目的ではありません。むしろ、教育や医療、職場、家庭などの場面で適切な支援を提供するための出発点として機能します。ICD-11では「神経発達症群」という新しい枠組みが導入され、従来よりも柔軟かつ多角的な評価が可能となり、個別の特性に応じた支援計画が立てやすくなっています。また、テクノロジーの進展により、電子化された診断支援ツールの活用や遠隔診断の導入が進み、診断の効率化と精度向上が図られています。
一方、セルフチェックは、発達障害の可能性に気づくきっかけとなる便利なツールです。特にADHDのASRS v1.1やASDのRAADS-Rといったセルフチェックシステムは、発達障害の特性を自己分析する上で役立ちます。ただし、主観的な評価には偏りが生じやすいため、チェック結果はあくまで参考とし、最終的な判断は専門医による正式な診断に委ねるべきです。
発達障害の診断には、多面的かつ段階的なアプローチが不可欠です。信頼できる医療機関を選ぶことが、正確な評価と支援の第一歩となります。診断後には、教育分野での合理的配慮や職場での支援、福祉制度の活用など、幅広い支援体制が用意されています。加えて、家族や地域社会との連携によって、当事者の生活の質や社会参加の機会が大きく広がります。
適切な診断基準に基づく評価と支援の実践は、発達障害を持つ人々が自分らしい人生を築くための基盤となります。正確な理解と丁寧な対応が、より良い未来への道を拓いていきます。
発達障害に関連する用語の解説と英語表記一覧
本記事で紹介している発達障害の理解をさらに深めるため、ここでは専門用語の簡単な解説と、英語略称・正式名称・日本語表記をまとめました。発達障害に関する基本的な用語を整理することで、読み進めやすくなり、理解がよりスムーズになるでしょう。
略称 | 英語正式名称 | 日本語表記 | 簡単な解説 |
---|---|---|---|
DSM-5 | Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition | 精神障害の診断と統計マニュアル第5版 | 精神疾患の診断基準を定めたアメリカ精神医学会のマニュアル。 |
DSM-5-TR | Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition, Text Revision | DSM-5テキスト改訂版 | DSM-5の内容を最新の知見に基づいて更新した版。 |
ICD-10 | International Classification of Diseases, 10th Revision | 国際疾病分類第10版 | WHOが定めた病気の国際的分類システム。 |
ICD-11 | International Classification of Diseases, 11th Revision | 国際疾病分類第11版 | ICD-10の改訂版で、神経発達症群などを含む最新分類。 |
ASD | Autism Spectrum Disorder | 自閉スペクトラム症 | 社会的コミュニケーションの困難と行動のこだわりを特徴とする発達障害。 |
ADHD | Attention Deficit Hyperactivity Disorder | 注意欠如・多動症 | 集中力の維持が難しく、多動性や衝動性が見られる発達障害。 |
LD | Learning Disabilities | 学習障害 | 読み書きや計算など、特定の学習分野に困難が現れる障害。 |
WISC-V | Wechsler Intelligence Scale for Children, Fifth Edition | 児童用ウェクスラー知能検査第5版 | 子どもの認知機能を測定するための心理検査。 |
WAIS-IV | Wechsler Adult Intelligence Scale, Fourth Edition | 成人用ウェクスラー知能検査第4版 | 成人の知能構造を多面的に評価する心理検査。 |
ADOS-2 | Autism Diagnostic Observation Schedule, Second Edition | 自閉症診断観察スケジュール第2版 | 自閉スペクトラム症の診断支援ツール。 |
CBCL | Child Behavior Checklist | 子どもの行動チェックリスト | 子どもの行動や情緒に関する問題を評価する質問票。 |
ASRS v1.1 | Adult ADHD Self-Report Scale, Version 1.1 | 成人用ADHD自己評価尺度 | 成人のADHD傾向を自己評価するためのチェックリスト。 |
RAADS-R | Ritvo Autism Asperger Diagnostic Scale-Revised | リトボ自閉症アスペルガー診断尺度改訂版 | 成人の自閉スペクトラム症特性を評価する質問票。 |
DIVA 2.0 | Diagnostic Interview for ADHD in Adults, Version 2.0 | 成人ADHD診断面接2.0版 | 成人期ADHDの診断を補助するための構造化面接ツール。 |
Vineland-II | Vineland Adaptive Behavior Scales, Second Edition | ヴィネランド適応行動尺度第2版 | 日常生活スキルや社会性などの適応行動を評価する尺度。 |
神経発達症群 | ━ | 神経発達症群 | ICD-11で採用された、発達障害を含む新しい疾患分類の総称。 |
セルフチェック | ━ | セルフチェック | 自分自身の特性や困難に気づくための簡易的な自己評価方法。 |
合理的配慮 | ━ | 合理的配慮 | 障害のある人が不利益を受けないように行われる環境や対応の調整。 |
心理検査 | ━ | 心理検査 | 知能や発達、情緒面などを科学的に測定するための検査。 |
スクリーニング | Screening | スクリーニング | 対象者に簡易検査を行い、発達障害の可能性を早期に見つける手法。 |
標準化検査 | Standardized Test | 標準化検査 | あらかじめ決められた方法と基準で行われる信頼性の高い検査。 |
行動観察 | Behavioral Observation | 行動観察 | 実際の行動を観察し、発達や問題点を評価する方法。 |
構造化面接 | Structured Interview | 構造化面接 | 事前に定められた質問項目に基づいて行う標準的な面接法。 |
発達歴 | Developmental History | 発達歴 | 乳幼児期から現在までの発達の様子を振り返る情報。 |
多職種連携 | Multidisciplinary Collaboration | 多職種連携 | 医師、心理士、教師など複数の専門家が連携して支援を行うこと。 |
疑似症状 | ━ | 疑似症状 | 発達障害に似た症状だが、他の原因によるもの。 |
精神鑑定 | Psychiatric Evaluation | 精神鑑定 | 精神疾患の有無や程度を専門家が総合的に評価する手続き。 |
執筆者

- 中濵数理, Ph.D.
- 一般社団法人日本再生医療学会 正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会 正会員
- 一般社団法人日本バイオマテリアル学会 正会員
- 公益社団法人高分子学会 正会員
- 一般社団法人日本スキンケア協会
顧問
- 沖縄再生医療センター(FA7230002) センター長
- お問い合わせ:お問い合わせフォーム