
脂漏性皮膚炎の症状・原因・治療法・セルフケアを臨床医学視点で詳しく解説
脂漏性皮膚炎は、日常的に発症しやすい皮膚疾患の一つですが、単なる皮脂トラブルと軽視されがちです。実際には、症状の多様性や再発傾向の強さ、年齢や生活環境との関連性など、複数の要因が絡み合う複雑な病態を形成しています。
特に、皮脂の分泌異常や皮膚常在菌のバランスの乱れは、炎症の慢性化に密接に関与しており、原因の理解が治療法の選択やセルフケア戦略に直結します。また、鑑別が必要なケースも多く、誤認による対処の遅れが慢性化の一因となるため、症状の観察力と判断力も重要です。
本記事では、脂漏性皮膚炎の代表的な症状とその現れ方、発症メカニズム、好発部位や年齢層ごとの傾向、そして治療やセルフケアの基本的な考え方について、臨床的視点から体系的に解説します。
症状を正しく理解する手がかりとして、さらに、治療やセルフケアの一助として活用ください。
脂漏性皮膚炎とは何か:定義と発症の特徴を理解する
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が活発な部位に慢性的な炎症が生じる皮膚疾患であり、症状や原因の理解は適切な治療とセルフケアの基盤となります
他の皮膚疾患と見た目が類似することもあるため、明確な定義と分類の理解が、診断精度と治療効果の向上に直結します
本章では、脂漏性皮膚炎の定義、分類、好発部位、発症年齢、そして疫学的な背景を整理し、構造的に症状全体を把握できるよう解説します
脂漏性皮膚炎の定義と分類
脂漏性皮膚炎は、皮脂腺が活発な部位に発症する慢性的な炎症性皮膚疾患で、加齢による発症パターンの違いから成人型と乳児型に分類されます。
それぞれの病型は発症部位や経過、治療方針が異なり、疾患の全体像を理解する上で分類の認識は極めて重要です。
医学的定義
脂漏性皮膚炎は、頭皮・顔面・耳介など皮脂腺の密集部位に発症する皮膚疾患で、鱗屑(りんせつ)・紅斑・軽度の痒みを伴うことが一般的です。
- 皮脂分泌の多い部位に慢性反復性に発生する炎症性皮膚疾患
- 剥がれやすい鱗屑と軽度〜中等度の紅斑を主徴とする病態
- 加齢に応じて成人型と乳児型に分類される疾患単位
- マラセチア属真菌の過剰増殖を病因の一つとする皮膚常在菌関連疾患
マラセチアは皮脂中のトリグリセリドを加水分解して遊離脂肪酸を産生し、TLR2/4を介した免疫応答を誘発して炎症を悪化させることが報告されています(出典:J Invest Dermatol.2005 May;124(5):931-8.)。
脂漏性皮膚炎と他疾患との鑑別点
脂漏性皮膚炎は、複数の皮膚炎と視覚的に類似しているため、正確な鑑別診断が治療開始の前提となります。特に皮疹の分布と鱗屑の性質が診断の手がかりになります。
- アトピー性皮膚炎における頬・頸部・屈曲部の痒みと乾燥性紅斑
- 乾癬(かんせん)における乾燥性かつ多層性の銀白色鱗屑と境界明瞭な紅斑
- 接触皮膚炎におけるアレルゲンまたは刺激物質による一過性炎症性病変
- カンジダ性皮膚炎における免疫抑制・糖尿病合併例の間擦部病変(出典:Candida infection of the skin)
視診と問診による症状部位・誘因・鱗屑の質感・皮疹分布を総合評価することで、他の皮膚疾患との識別精度が高まります。
好発部位と発症年齢
脂漏性皮膚炎は皮脂分泌の多い部位で発症しやすく、湿度や密閉環境もリスク因子になります。また、年齢によって自然寛解の可能性や慢性化の傾向も大きく異なります。
乳児期には一過性の炎症が多く、成人以降は再発と慢性化を繰り返すケースが一般的です。
脂漏部位の解剖学的特徴
皮脂腺が密集している部位、かつ汗腺活動や通気性の低下が見られる部位では、マラセチアの増殖環境が整い、脂漏性皮膚炎が好発しやすくなります(出典:medicina 57巻11号 pp.1868-1869(2020年10月))。
- 頭皮における皮脂腺の高密度分布
- 顔面Tゾーン(眉間・鼻翼・髭部)における脂漏性皮膚反応
- 耳介後部の湿潤密閉環境による皮膚炎好発部位
- 胸骨上部における皮脂腺と汗腺の活性部位
これらの部位では皮脂・湿気・通気のバランスが乱れやすく、微生物の繁殖と免疫反応の過剰が炎症誘発に関与します。
発症年齢によるタイプの違い
脂漏性皮膚炎の臨床経過は年齢層により大きく異なり、乳児期は一時的・自然軽快型、成人期以降は慢性・再発型という傾向があります。
- 乳児型における生後2〜12週の頭皮・顔面への非瘙痒性皮疹
- 成人型における思春期〜中年期の慢性紅斑性病変
- 高齢型における皮膚バリア機能低下と再燃傾向の増加
乳児型は自然軽快が多いものの、難治化例では外用療法が行われます。成人・高齢型では再発予防とスキンケア習慣が長期管理の鍵となります。
疫学的背景
脂漏性皮膚炎は全人口の3〜5%に発症するとされ、思春期以降の男性に多いことが知られています。ホルモン・皮脂腺活性・生活習慣・遺伝要因が複合的に発症に関与します。
疾患のリスク認識と対策は、早期発見や予後改善に直結する重要な観点です。
発症頻度と性差
性差・年齢・皮脂腺感受性などにより脂漏性皮膚炎の発症傾向は大きく異なり、特に男性ホルモンの影響が強い皮脂腺で有病率が上昇することが分かっています(出典:UpToDate)。
- 全人口における推定有病率3〜5%
- 男性における発症頻度の疫学的有意差
- 皮脂分泌過多傾向を持つ脂性皮膚という素因
- アンドロゲンの5α-リダクターゼ変換を介したDHT(ジヒドロテストステロン)による皮脂腺刺激機序(出典:J. Clin. Med. 2020, 9(3).786)
- 心理的ストレスによるコルチゾール上昇が皮脂分泌と免疫機能抑制に及ぼす影響
これらの要素を個別リスク因子として正確に把握し、生活指導・薬物治療・スキンケアを統合的に適用することが、脂漏性皮膚炎の包括的なマネジメントにおいて重要です。
脂漏性皮膚炎の主な原因と発症メカニズム
脂漏性皮膚炎は、皮脂の過剰分泌、真菌の異常増殖、皮膚バリア機能の低下といった複数の要因が重なり合って発症する慢性炎症性皮膚疾患です。これらの原因は単独ではなく相互に影響し合いながら病態を進行させます。
本章では、脂漏性皮膚炎の代表的な発症メカニズムとして、皮脂の状態、マラセチア属真菌の関与、体質的要因、ホルモンや自律神経、さらには生活環境の影響について多角的に解説します。
原因の構造的理解を深めることで、再発を抑えながら効果的な治療やセルフケアを実践する手がかりが得られます。
皮脂分泌とマラセチア菌の関与
脂漏性皮膚炎の発症要因の中核には、皮脂分泌の亢進と、それに付随するマラセチア属真菌の増殖があります。皮脂の量と質が変化することで皮膚表面の微生物バランスが乱れ、炎症反応を引き起こしやすくなります。
以下では、皮脂とマラセチアの関係とその病態波及メカニズムについて解説します。
皮脂量の増加が引き起こす生態変化
皮脂の分泌量が増加すると、皮膚の微生物環境に変化が生じ、マラセチア属真菌が優勢となります。この過程で代謝物や炎症誘導物質が発生し、角質層や免疫応答に影響を及ぼします。
皮脂中の脂質はマラセチアのリパーゼで分解され、刺激性の高い代謝産物が産生されます。これらはケラチノサイトに作用し、表皮ターンオーバーの乱れや炎症性サイトカインの誘導を引き起こします(出典:Br J Dermatol. 2011 Oct:165 Suppl 2:2-8)。
マラセチア属真菌の特徴
マラセチア属は健康な皮膚にも存在する常在菌ですが、皮脂が過剰な環境下では病原性を示し、炎症誘発性の物質を産生するようになります。
マラセチア由来の代謝物は、皮膚免疫系のパターン認識受容体に結合し、炎症性サイトカイン(IL-6、IL-8、IL-17など)を誘導することで慢性炎症を助長します(出典:ケラチノサイトに作用し、表皮ターンオーバーの乱れや炎症性サイトカインの誘導を引き起こします(出典:Clin Microbiol Rev. 2002 Jan;15(1):21-57.)。
内因的要因:体質やホルモンバランスの影響
脂漏性皮膚炎には、皮膚のバリア機能や免疫応答の個体差、自律神経の変調、ホルモン分泌の影響といった内的要因も深く関わっています。とくに体質やホルモンの変動は病態の長期化に直結することがあります。
以下では、脂漏性皮膚炎に関与する内因性の要素について詳しく見ていきます。
皮膚バリア機能の低下
皮膚のバリア機能はセラミドなどの脂質に支えられていますが、これが不足すると外的刺激や常在菌への反応が過剰になり、炎症が慢性化しやすくなります。
- セラミド不足に起因する角層バリアの脆弱化
- 微生物成分に対する免疫細胞の過剰応答
- 組織修復機能の低下による炎症の持続化
ケラチノサイトや樹状細胞が微生物由来成分に過敏に反応するようになると、炎症性サイトカインやケモカインが持続的に分泌され、病態の慢性化が進行します(出典:Cells. 2024 Mar 13;13(6):505.)。
ホルモンと自律神経の関連性
ホルモン分泌の変化や自律神経の乱れも皮脂腺活動に直接的な影響を及ぼします。とくにDHTは皮脂腺を刺激しやすいことで知られています。
- DHTによる皮脂腺分泌活性の亢進
- ストレス誘発による交感神経優位の皮脂分泌亢進
DHTは5α-リダクターゼによりテストステロンから生成され、皮脂腺のアンドロゲン受容体に結合して皮脂の分泌を増加させます。ストレスに伴う交感神経の過活動も同様に皮脂分泌を刺激し、マラセチアの増殖環境を形成します(出典:Rev Urol. 2004;6(Suppl 9):S11–S21.)。
外的因子の関与
気候や生活環境の変化、生活習慣の乱れなどの外的要因も、脂漏性皮膚炎の発症・増悪に大きく関与します。これらは皮脂分泌やバリア機能に影響し、マラセチアの増殖や炎症閾値を変動させます。
外的因子は修正可能なリスク因子でもあるため、セルフケアの観点からの改善が予防や再発抑制に有効です。
気候や生活環境の影響
高温多湿環境では皮脂分泌とマラセチアの増殖が促進され、乾燥環境では皮膚バリア機能が低下しやすくなります。これらの条件は炎症誘発因子として作用する可能性があります。
- 皮脂腺活動とマラセチア増殖を助長する高温多湿環境
- 角質水分保持機能を低下させる乾燥環境
湿度や気温の変化により皮膚の油水バランスが乱れ、脂漏性皮膚炎の症状が再燃しやすくなります。とくに脂漏性鱗屑(いわゆるフケ)の増加は気候要因と密接に関連しています。
生活習慣の乱れと皮膚状態
食生活や睡眠、ストレス管理といった日常的な習慣も、皮膚の代謝や免疫機能に大きく影響します。これらの乱れは炎症の持続やバリア機能低下を引き起こす原因になります。
- IGF-1経路を介した皮脂腺刺激を誘発する高脂肪・高糖質食
- 皮膚修復と免疫調整を妨げる睡眠不足
高脂肪食は皮脂腺でのIGF-1発現を促進し、皮脂分泌を増加させます。また、深夜型の生活や睡眠不足はホルモン分泌のリズムを崩し、皮膚の再生や免疫応答の低下を引き起こします((出典:Ann Dermatol. 2019 May 1;31(3):294–299.)。
脂漏性皮膚炎の症状とその特徴的な経過
脂漏性皮膚炎は、皮脂腺の活動が活発な部位に慢性的な炎症が生じる皮膚疾患で、代表的な症状としては痒みや赤み、鱗屑などが挙げられます。これらは日常生活において繰り返し現れやすく、継続的なセルフケアと医療的対応が求められます。
本章では、脂漏性皮膚炎に見られる典型的な症状の種類とその発現の仕方、再発しやすい季節性の傾向、さらに併発のリスクがある関連疾患について体系的に解説します。
症状を早期に認識し、正しい対処を行うことが、治療の効果を高め、長期的な症状安定を導く鍵となります。
主な自覚症状と視診所見
脂漏性皮膚炎は、患者が自覚する不快感だけでなく、視診によって認められる皮膚の変化も重要な診断要素となります。症状は皮膚の状態や部位によって異なり、治療判断において一定の観察が必要です。
ここでは、日常的に現れやすい主な自覚症状と、皮膚科医が診察時に確認する代表的な視診所見に分けて整理します。
代表的な症状
脂漏性皮膚炎では、初期にかゆみや紅斑が出現し、進行すると粉状または湿った鱗屑が目立つようになります。これらの症状は一定の周期で悪化と軽快を繰り返す傾向があります。
- 慢性的かつ波がある痒み
- 境界不明瞭な紅斑として現れる赤み
- 粉状または湿った状態で出現するフケ様の鱗屑
- 掻破(そうは)によって悪化する刺激感や皮膚の不快感
症状は気候や体調、生活環境の変化に影響されやすく、早期対応により悪化の連鎖を防ぐことが可能です。
視診で確認される皮膚変化
医師が視診によって確認する皮膚の状態は、診断だけでなく、治療効果の判定や病態の進行評価にも用いられます。脂漏部位特有の所見が現れることが多いのが特徴です。
- 皮膚表面の薄い剥離
- 油性光沢を伴う発赤部位
- 皮膚亀裂や浸軟(しんなん)の合併例
これらの視診所見を定期的に観察し、症状変化に気づけるよう意識することは、日常的なセルフケアを成功させるうえで非常に有効です。
症状の進行と再発パターン
脂漏性皮膚炎は、一定期間で自然軽快することもありますが、多くの場合、気候や体調の変化により再発を繰り返す慢性疾患として経過します。
ここでは、再発傾向が高まる季節的要因と、慢性化を助長するセルフケア上の注意点について説明します。
季節性変動
脂漏性皮膚炎の症状は、外気の湿度や気温の変動に敏感で、特に乾燥や発汗が増える時期に悪化しやすくなります。これらの要因が皮膚のバリア機能や皮脂のバランスを乱すためです。
- 乾燥によって悪化しやすい秋冬期
- 発汗によって再燃することがある春夏期
症状の再燃を防ぐには、季節に応じた保湿や清潔管理など、予測的なセルフケアの実践が求められます。
慢性化するリスク因子
脂漏性皮膚炎の慢性化は、不適切な自己処置や外用剤の誤使用に起因するケースが少なくありません。これらは皮膚の炎症を長引かせるだけでなく、二次的な皮膚障害を誘発する可能性があります。
- 誤った対処による自己処置
- 用量や使用期間の誤りを含む外用剤の不適切使用
- 症状の再燃につながる治療の中断や不十分なケア
特に市販薬の長期使用や症状の自己判断による治療中断は、症状の慢性化を助長するため、皮膚科医の指導のもとで適切な治療を継続することが重要です。
関連疾患や二次感染のリスク
脂漏性皮膚炎は、単独でも厄介な疾患ですが、皮膚バリアの低下により他の皮膚疾患を併発することがあり、症状の複雑化を招くことがあります。
ここでは、脂漏性皮膚炎と併発しやすい皮膚疾患の例を挙げ、リスクの特性とその対処法の方向性を明らかにします。
併発しやすい皮膚疾患
脂漏性皮膚炎の進行や管理が不十分な場合、類似した炎症性疾患や微生物感染が生じることがあり、これらは診断や治療において別個の配慮を要します。
これらの疾患は脂漏性皮膚炎とは異なる病態であるため、誤診や対処の遅れを防ぐためにも、皮膚科専門医による鑑別と適切な併用治療が必要です。
脂漏性皮膚炎の治療法とセルフケアの両立
脂漏性皮膚炎の治療では、マラセチア属真菌の制御や皮膚炎症の軽減を目的とした薬物療法と、日常生活におけるセルフケアの適切な実施が欠かせません。原因への対処と再発予防の双方が、長期的な安定につながります。
本セクションでは、抗真菌薬・ステロイドなどの標準的な治療薬の使用法、生活習慣の改善による予防的対策、さらにセルフケア製品の選び方とその役割について包括的に解説します。
再燃しやすい脂漏性皮膚炎を的確に管理するには、医学的治療と日常的セルフケアの両輪による継続的な取り組みが求められます。
標準的な治療薬と使用法
脂漏性皮膚炎の治療では、病因とされるマラセチア属真菌の抑制と、急性炎症の沈静化が基本方針となります。外用薬が治療の中心となり、使用目的や作用に応じて複数の薬剤が選択されます。
以下に、日常的な診療で使用される代表的な抗真菌薬およびステロイド外用薬の種類と注意点を示します。
抗真菌薬の使用
脂漏性皮膚炎の主要な原因菌であるマラセチア属に対し、抗真菌薬は直接的な効果を持つ重要な治療手段です。外用薬として使用される薬剤は、再燃予防にも効果が期待されています。
抗真菌薬は継続的な使用によって皮膚常在菌叢のバランスを整える働きもあり、医師の指示に基づいて適切に使用することが重要です。
ステロイド外用薬の位置づけ
脂漏性皮膚炎の炎症が急激に悪化した場合、炎症反応を速やかに抑える目的でステロイド外用薬が短期間使用されます。ただし、使用量や期間には厳格な管理が必要です。
- 炎症抑制を目的とした短期間での使用
- 皮膚萎縮や毛細血管拡張、真菌感染悪化のリスクを伴う長期使用
ステロイドは紅斑や浮腫などの急性症状に対して迅速な効果が期待されますが、副作用リスクも伴うため、自己判断での使用は避け、医師の管理のもとでの使用が原則です。
生活習慣の見直しと予防策
脂漏性皮膚炎は再発性の高い皮膚疾患であり、治療の効果を高めるには、皮脂分泌や皮膚バリア機能に影響する生活習慣の見直しが重要です。特に皮膚環境を安定させることが予防の鍵となります。
ここでは、皮膚刺激を抑えるスキンケアの実践、栄養・睡眠・ストレスに配慮した内的調整を中心に、セルフケアの基礎を整理します。
スキンケアのポイント
皮膚の洗浄と保湿は、脂漏性皮膚炎の再発予防に直結する重要な行動です。製品の選び方や使用方法によっては、症状の悪化を防ぐことも可能です。
- 刺激の少ない洗顔料の使用
- 過剰な皮脂除去を避ける工夫
- 保湿剤との併用によるバリア機能の補助
- アニオン系など刺激性の高い界面活性剤を避けた処方。ただし、製品全体の処方バランスを踏まえて選択することが望ましい
スキンケアは肌質や症状の程度に応じて調整しながら継続することで、皮膚の保護と安定につながります。
食事・睡眠・ストレス管理
内的な代謝・免疫・ホルモン系の調和は、脂漏性皮膚炎の症状に大きな影響を与えます。とくに食事の偏りや睡眠不足、精神的ストレスは悪化因子として知られています。
- ビタミンB群を意識した栄養バランスのある食事
- 皮膚の再生と免疫調整に役立つ十分な睡眠
- ホルモンバランスを整えるストレス軽減
生活習慣の調整は長期的な治療効果の安定化に不可欠であり、医療と連携したセルフケアの基盤として実践することが求められます。
セルフケア製品とその選び方
脂漏性皮膚炎の軽度管理や予防では、市販の洗浄・保湿製品の使用が役立つ場面もあります。ただし、成分の機能性と安全性を正しく理解したうえでの選定が重要です。
ここでは、洗顔料やシャンプー、ならびに法的分類上の医薬部外品と化粧品の違いを踏まえ、セルフケア製品を選ぶ際の着眼点を整理します。
シャンプーや洗顔料の選定基準
脂漏性皮膚炎では、皮膚の常在菌バランスとバリア機能の維持が求められるため、洗浄剤の選択が極めて重要です。洗いすぎや刺激の強い成分は避ける必要があります。
- 皮膚刺激の少ない低刺激性・無香料の製品
- 抗真菌成分を含む処方
- 界面活性剤が強すぎない処方設計
製品を選ぶ際は、全成分の確認だけでなく、数日間の使用による肌反応を観察し、症状の悪化が見られる場合はすみやかに中止し、医療機関へ相談する必要があります。
医薬部外品と化粧品の違い
セルフケア製品は薬機法に基づいて「医薬部外品」と「化粧品」に分類され、それぞれの効能範囲と使用目的に明確な違いがあります。
- 有効成分が厚生労働省に承認された医薬部外品
- 洗浄や保湿など日常の肌管理を目的とした化粧品
脂漏性皮膚炎のセルフケアにおいて、医薬部外品は予防的な衛生管理や軽度症状の補助として使用されることがありますが、治療効果を保証するものではないため、医療的対応が必要な場合は必ず専門医の診断を受けてください。
総括:脂漏性皮膚炎の定義と発症の特徴を正しく知る
脂漏性皮膚炎は、皮脂の分泌が盛んな部位に慢性的な炎症が起きる皮膚疾患であり、日常生活の中で再発を繰り返す傾向があります。症状の特徴や原因を理解することは、的確な治療とセルフケアの実践につながります。
この疾患は、外見が他の皮膚炎と似ていることから、適切な診断には明確な定義と分類の把握が欠かせません。診療の現場では、視診と問診を組み合わせて鑑別が行われますが、患者自身が症状の意味を理解することも管理の一部です。
本記事では、脂漏性皮膚炎の定義と分類を起点として、症状が現れやすい部位や年齢層、さらには発症に影響する環境や体質について解説します。こうした情報を正しく理解することが、再発予防と快適な生活の維持に役立ちます。
脂漏性皮膚炎には、成人型と乳児型という二つのタイプが存在します。成人型は頭皮や顔面、耳の周囲など皮脂腺が多い部位に発症しやすく、鱗屑や紅斑、かゆみなどの症状を伴います。一方、乳児型は生後数週間以内に頭部や顔に見られ、通常は数カ月以内に自然に治まる傾向があります。
また、この疾患の発症には、皮脂分泌の状態や皮膚常在菌であるマラセチア属真菌の関与が指摘されています。マラセチアは皮脂を分解して遊離脂肪酸を産生し、皮膚の免疫反応を誘導して炎症を引き起こす可能性があるため、原因菌のコントロールは治療の重要な柱となります。
脂漏性皮膚炎と混同されやすい疾患には、アトピー性皮膚炎や乾癬、接触皮膚炎、カンジダ性皮膚炎などがあります。特に皮疹の分布や鱗屑の状態が類似することから、自己判断による対応は避け、専門医による診断が推奨されます。
症状が出やすい部位としては、頭皮、顔のTゾーン、耳の後部、胸骨上部などが挙げられます。これらの部位は皮脂分泌が活発で、湿度が高く通気性が低下しやすい環境であるため、マラセチアの増殖に適した条件が整いやすくなります。
脂漏性皮膚炎の有病率は全人口の約3〜5%とされ、特に思春期以降の男性に多く見られます。これは、男性ホルモンや皮脂腺の感受性、さらにストレスによるホルモン変動が皮脂分泌を活性化させるためと考えられています。
正しい知識を持ち、症状の出現に気づいた時点で適切なセルフケアや医療的対応を行うことが、慢性化を防ぐうえで重要です。再発予防には、皮脂分泌の管理や生活環境の整備、そして医師と連携した治療計画が求められます。
用語集|脂漏性皮膚炎に関する主要用語一覧
脂漏性皮膚炎に関する理解を深めるには、医療用語や生理学用語の正確な意味を知ることが役立ちます。特に皮膚科学や免疫学に関連する専門用語が数多く登場するため、文脈に応じて用語の意味を整理しておくことが重要です。
以下の表では、記事本文に登場する代表的な用語について、日本語および英語の名称、略称、さらに読者の理解を助ける簡潔な解説を掲載しています。必要に応じて参照ください。
日本語正式名称 | 日本語略称 | 英語正式名称 | 英語略称 | 簡単な用語解説 |
---|---|---|---|---|
耳介 | ━ | Auricle | ━ | 外耳の一部で、脂漏性皮膚炎が好発する部位 |
鱗屑 | ━ | Scale | ━ | 角質が剥がれて皮膚表面に現れる白色片状の状態 |
真菌 | ━ | Fungus | ━ | 酵母やカビなどの微生物の総称 |
マラセチア | ━ | Malassezia | ━ | 皮膚常在菌で皮脂を分解し炎症を誘発することがある真菌の一種 |
常在菌 | ━ | Normal flora | ━ | 健康な皮膚や体内に常に存在する微生物群 |
トール様受容体2および4 | ━ | Toll-like Receptor 2/4 | TLR2/4 | 病原体を認識する免疫受容体の一種で炎症誘導に関与 |
トリグリセリド | ━ | Triglyceride | ━ | 皮脂中に含まれる脂質で、マラセチアが分解して炎症物質を産生する元になる |
加水分解 | ━ | Hydrolysis | ━ | 化合物が水によって分解される化学反応 |
遊離脂肪酸 | ━ | Free Fatty Acid | FFA | 脂質が分解されて生じる成分で、皮膚刺激となる |
乾燥性紅斑 | ━ | Dry Erythema | ━ | 乾燥した肌に発生する赤みを帯びた皮膚病変 |
乾癬 | ━ | Psoriasis | ━ | 慢性炎症性疾患で銀白色の鱗屑を伴う紅斑が特徴 |
カンジダ | ━ | Candida | ━ | 免疫低下時などに皮膚炎を引き起こす真菌の一種 |
寛解 | ━ | Remission | ━ | 症状が一時的または持続的に軽快すること |
非瘙痒性皮疹 | ━ | Non-pruritic Rash | ━ | かゆみを伴わない発疹 |
アンドロゲン | ━ | Androgen | ━ | 皮脂腺を刺激し皮脂分泌を高める男性ホルモン |
5α-リダクターゼ | ━ | 5α-Reductase | ━ | テストステロンをDHTに変換する酵素 |
ジヒドロテストステロン | ━ | Dihydrotestosterone | DHT | 強力なアンドロゲンで皮脂腺を活性化する |
コルチゾール | ━ | Cortisol | ━ | ストレス時に分泌されるホルモンで皮脂分泌や免疫抑制に関与 |
サイトカイン | ━ | Cytokine | ━ | 免疫細胞が放出する情報伝達物質 |
ケモカイン | ━ | Chemokine | ━ | 炎症部位に免疫細胞を誘導する物質 |
インターロイキン-1β | ━ | Interleukin-1 beta | IL-1β | 炎症を促進する主要なサイトカインの一種 |
インターロイキン-6 | ━ | Interleukin-6 | IL-6 | 急性炎症反応に関与するサイトカイン |
インターロイキン-8 | ━ | Interleukin-8 | IL-8 | 好中球を誘導するケモカインの一種 |
インターロイキン-17 | ━ | Interleukin-17 | IL-17 | Th17細胞が産生する炎症性サイトカイン |
角化異常 | ━ | Keratinization Disorder | ━ | 角層形成の異常でフケや鱗屑の原因となる |
リパーゼ | ━ | Lipase | ━ | 脂質を分解する酵素でマラセチアが産生 |
ケラチノサイト | ━ | Keratinocyte | ━ | 皮膚表皮の主な細胞でバリア機能と免疫応答に関与 |
トール様受容体2 | ━ | Toll-like Receptor 2 | TLR2 | 病原体を認識する免疫受容体の一種 |
C型レクチン様受容体-1 | ━ | Dectin-1 | ━ | 真菌成分を認識する免疫受容体 |
ヘルパーT細胞17 | ━ | T helper 17 | Th17 | 炎症性サイトカインIL-17を産生するT細胞 |
テストステロン | ━ | Testosterone | ━ | アンドロゲンの代表で5α-リダクターゼによりDHTに変換される |
皮脂腺 | ━ | Sebaceous Gland | ━ | 皮脂を分泌する皮膚の器官で炎症部位に多い |
インスリン様成長因子-1 | ━ | Insulin-like Growth Factor-1 | IGF-1 | 皮脂腺を刺激する成長因子で皮脂分泌に関与 |
脂漏性湿疹 | ━ | Seborrheic Eczema | ━ | 脂漏性皮膚炎に類似した湿疹型の皮膚炎 |
ケトコナゾール | ━ | Ketoconazole | ━ | 脂漏性皮膚炎に使われる抗真菌薬の一種 |
ミコナゾール | ━ | Miconazole | ━ | 抗真菌作用と軽度の抗炎症作用を併せ持つ外用薬 |
執筆者

- 中濵数理, Ph.D.
- 一般社団法人日本再生医療学会 正会員
- 特定非営利活動法人日本免疫学会 正会員
- 一般社団法人日本バイオマテリアル学会 正会員
- 公益社団法人高分子学会 正会員
- 一般社団法人日本スキンケア協会
顧問
- 沖縄再生医療センター(FA7230002) センター長
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